まだ中国のハイテクは見かけ倒しだ

 日本のお家芸だった家電が国際競争力を低下させるなかで、中国のハイテクの実力に注目が集まっている。廉価な人件費でモジュール型の工業製品が優位に立つのは分かるが、技術そのものの実力はどうなのだろうか。
 科学技術振興機構研究開発戦略センターが最近『中国の科学技術力について~世界トップレベル研究開発施設~』を取りまとめて、発表した。ネット上での公開も予定されている。
 このリポートは中国が世界のトップレベルだと豪語するスパコン、有人潜水調査船、核融合、ゲノム解析、光学天文台、シンクロトロン放射光施設などの研究開発施設の現地調査を取りまとめたものである。わたしは核融合を担当した。リポートの中からいくつかを抜粋してみよう。

1.スパコン
 世界のスパコンの演算スピードは日米中の三ヶ国がトップ争いを演じている。中国最速のスパコン「天河1A」はIntelのCPUに、アクセラレータとしてNVIDIAのGPU、そしてインターコネクト用のGalaxy FT-1000という3種類からなるが、Galaxy FT-1000のみが中国製で、残りは米国製である。ハード面での米国依存から脱却しているとは言い難い。また、演算スピードを上げるためのソフトウェアの開発が遅れているため、大容量のハードの割には演算スピードが遅い。実効効率が低いのである。
 低価格で世界トップクラスのスピードを達成することに主眼をおいたシステムであるといえる。
 そもそもスパコンは研究の目的ではなく手段である。しかし、中国では有望なアプリケーションも決まっていない。ハードウェアは作ったけれど、何をやっていいか分からない状態にある。アプリケーション開発では、中国は日本や米国にかなり遅れているのだ。ハードウェアにおカネをかけて、ソフトウェアにあまり投資しないアンバランスな状況にある。
 面子重視のハードウェア開発先行は使えないスパコンを作ってしまったようだ。蓮舫議員に「事業仕分け」してもらったらどうだろうか。
 さらに、中国のスパコン戦略はこれまでどおりアクセラレータ(GPU)を主体とするのか、CPU主体のシステムでいくのか明確にしないとアプリケーション開発者やユーザが混乱することになる。CPUやGPUについても、中国製にこだわるのか、それとも米国製でいくのかをはっきりさせなければならない。行方は楽観的ではない。

2.有人潜水調査船
 今年6月下旬、中国は有人飛行船のドッキングに成功したと日本のマスメディアは報道していたが、中国ではそればかりでなく、自主開発の有人潜水調査船「蛟竜」が世界一の水深7020メートルの潜水に成功したとダブルの快挙に沸いていた。宇宙と深海で中国は偉業をなしたというのだ。
 しかし、課題も多い。まず、潜水調査船の核となる耐圧殻の製造技術はロシアから導入したものであり、中国は技術を持たない。もちろん中国国内では、例によって「蛟竜」は自主技術と報道されている。中国に抜かれるまで世界トップを維持してきた日本の「しんかい6500」は20年前に開発された技術である。今ではもっと深海に潜れる技術を開発できるはずだ。日本にとっての課題は財政難の折に、研究費を確保できるかどうかであろう。
 さらに、運用開始後の試験・検査や部品の取替え頻度にノウハウが隠されている。有人潜水調査船もスパコンと同じく、研究のための手段である。日本にとっては、海溝に潜り地震の原因解明に役立つ知見を得るという国民の強い期待があるが、中国のニーズは不明である。世界トップの地位を得たいという面子のためだけであろうか。サイエンスはオリンピックとは違うことを認識すべきである。

3.核融合
 中国の核融合開発のレベルは、世界で最初に超伝導を用いた核融合実験施設EASTを実現したが、トップクラスの日米欧に10年以上遅れる位置にある。最初に超伝導を用いることができたのは、海外に遅れて実験施設を整備したが運よく超伝導技術が実用化段階にあったために、それを採用することができたためだった。僥倖と言える。
 核融合発電には、入出力が均衡するプラズマ臨界条件をクリアしなければならないが、EASTは容量が小さすぎるためにそれを実現するのは困難だ。中国が容量の小さい装置しか作れないのは、超伝導技術、プラズマ加熱装置、プラズマ計測装置などの基盤技術が遅れているためである。日本はメーカーの基盤技術が優れているため、官民ビッグプロジェクトを通じてハイテクのレベルを向上してきた有利な仕組みがある。
 中国は超電導材はロシアから輸入してケーブル化しているし、実験装置の大幅な改造には設計を行った米国プリンストン大学の支援を得なければならない状況にある。つまり、中国は国産化率9割と誇るが、肝心な技術は米露に依存しているのである。
 しかし、日米欧露韓中印の7極は国際核融合実験炉ITERをフランスに建設中で、2020年過ぎから共同実験が開始されると、中国は要素技術や実験データを共有できるようになるため、他の先進国に急速に追い付いてくると思われる。
 国際共同実験炉ITERの後は、各国が実用化を目指した原型炉の開発に移行すると思われる。中国は純粋な核融合炉の開発ではトップクラスになるのは難しいが、一番乗りを狙って核融合・核分裂ハイブリッド炉を開発するとも噂されている。ハイブリッド炉は核融合反応で得られた高速中性子線をウランまたはプルトニウムに照射して核反応を起こそうというものだ。これは実現は早いかもしれないが、核燃料廃棄物が少ないなどの核融合のメリットを削いでしまう可能性がある。
 電力不足に喘ぐ中国が焦って何をしでかすか、国際社会も注視していくことが必要だ。

4.光学天文台
 中国は全天観測用大型光学望遠鏡LAMOSTを2009年に観測させた。全天観測の視野角が5度で世界最大であり、1回の観測で4,000個の恒星のスペクトルが同時に取得できるという特徴があると言う。LAMOSTは中国人のアイデアに基づいて開発されたことは評価しよう。でも、中国は「世界最大」にこだわっているのではなかろうか。
 天体望遠鏡は大きければいいという訳では決してない。天文学の研究の道具にしか過ぎない。日本がハワイに設置している「すばる」はまだ人類が見たことがない光を捉えようとしている。それは宇宙の成り立ちのプロセスを解明することを目的に設計・開発されたものである。天文学という科学の発展のために、巨費を投じて「すばる」が出現したのである。
 しかし、中国では逆だ。世界有数の天文台を作ることが重視され、何を研究するかは重視されてない。おそらく、中国のリーダー達もこの現実を分かっていないように思われる。有力な学者達に「中国人のアイデアで世界トップクラスの天文台が作れるんです。凄いでしょう」と言われて、面子を重視するリーダーがOKしたと思われる。
 さらに、LAMOSTの立地場所も問題だ。大気汚染が酷い北京市郊外の河北省に設立されている。それに。春には黄砂が舞う地域でもある。なぜこんな悪い条件のところに天文台があるのか。わたしは疑問に思い、ある日本人科学者を経由して調べてもらった。そうすろと、政治案件との返事である。つまり、有力な共産党幹部が自分の出身地に誘致したと思われる。
 黄砂で天文台が使えなくなることにならないように祈っている。

5.ゲノム解析
 深せんに本部があるBGIは世界最多の次世代シーケンサーを持ち、世界中からゲノム解析の業務を受け入れている。民間企業のBGIは莫大な費用を払って、世界最高度のシーケンサーを買い揃えたのである。BGIは香港支部に半数を超えるシーケンサーをおいている。これは世界の研究者が中国国内での解析に不安を抱いてるためであると思われる。やはり共産党は信頼されていない。それにしても、香港であれば安心感を与えられると判断した経営者は偉い。
 ただ、ゲノム解析の分野でもハードは強いが、ソフトは弱い。ゲノムを解析して得たデータから生命の神秘に迫るバイオインフォマティスクのレベルが低すぎる。せっかく世界のトップ研究の状況を把握できる立場にあるのだから、その利点を生かさないことはなかろう。
 なお、日本はかつてゲノム解析技術は世界有数の実力を有していたが、ゲノム解析の時代は終わったとして、政府のライフサイエンスの重点分野から外されたため、世界から取り残されてしまった。(2012年7月8日、寺岡伸章)


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