「我々被災者のことを忘れないでほしい」

 三連休は東北の被災地の見学とボランティア活動で過ごした。
 13日(金)午後10時過ぎ、我々6人を乗せたバンは浅草を北へ向けて出発した。夜行便である。翌朝明るくなると、途中のコンビニエンスストアで朝食をとった。午前7時35分、宮古市で他のバンと合流し、総勢13人になった。わたしを除いて、みなさんは熱心な仏教の信者である。宮古市は岩手県の太平洋海岸の中央に位置する。ここには、津波で有名になった田老地区のスーパー堤防がある。まず、その状況を見に行くことになった。

 湾の中の巨大な堤防はほとんど壊滅状態だった。陸の上の二重の堤防のうち、海側の堤防は原型を留めていない。ショベルカーが新しいものを作るために残った堤防を破壊している。一番内側の18メートルもあるという堤防は無傷だが、外側に並んでいたと思われる家並みは喪失し、その跡に草が茂っている。テレビで何度か見た田老観光ホテルは鉄骨を剥き出しにしている。小高い丘に建っている家々が緑の原っぱを眺望している。
 原っぱには街があったはずだが、そこは棄てられたように、風が吹いていた。瓦礫は片づけられ、街の端のところどころに山積みにされている。素人目にはいつ復興の槌音が響くかわからない。
 我々一行はバンに乗って出発した。すると豪雨が降ってきた。宗教団体には神がついているので、便利である。このときばかりでなく、3日間天気には恵まれたのだった。

 バンは国道45号に沿って、石巻まで南下していくのだ。
 カキの養殖が盛んだった山田町も道路の左右に家はない。次の街の大槌町では、城跡の高台に上り、被災地を一望した。テレビで何度も見た景色が蘇る。バスが津波から逃れるように走っていたのはここだった。町は全壊だ。鉄筋コンクリートの建物には「取り壊して下さい」と書かれているが、3.11のままの状態のままだ。大槌町は近くにボランティアの宿泊施設がないため、人手が足りず復興が遅れているという。ボランティアに行きたいという人はぜひとも大槌町に行ってほしい。
 湾には井上ひさしの「ひょっこりひょうたん島」のモデルになった小さい島が何事もなかったかのように静かに浮かんでいる。津波で壊されたのは人工物だけのように思える。

 途中、ローソンを何件見ただろうか。コンビニが復興の最先端を走っている。これが現実だ。両石町を経由して釜石市に入り、早めの昼食をとった。地元特産の海鮮丼。お金を落とすのも、復興支援になるにちがいないと思った。
 出発。どの街も例外なく壊滅状態だ。被災後2年目の夏を迎え、雑草が緑の絨毯のように敷き詰められている。塩害をもろともせず成長している。
 さらに南下すると、開けたところに出た。陸前高田だ。海岸沿いに茂った7万本のうち1本だけ残った松で有名になった街だ。松の葉は茶色に変色している。
 海沿いのキャピトルホテル1000、道の駅「高田松原」は全壊のうえに、土地は1メートル近く地盤沈下している。スーパーMAIYAの屋上にいた人は助からず、その上の看板によじ登った人は助かった。生死の差は紙一重だった。驚いたのは駅だった。駅舎は影も形もないが、線路も枕木も紛失していた。そこが駅だったと言われなければ、気が付かなかったかもしれない。
 見渡す限り、県立病院、マンション、JA、郵便局のコンクリート製建物以外はなにもない。街が消えたかのようだ。

 さらに南下を続ける。トラックが行きかう。気仙沼に着く。ここは昨年4月、わたしが新幹線開通後に訪れたところだ。瓦礫はほとんど片づけられているが、いわきの巨大な漁船「第十八共徳丸」は陸に乗り上げたままで放置されている。カメラスポットとして最高だろう。見学者が多いのだろうか。すぐ前にはコンビニが開業していた。数年後には、世界遺産として登録される資格が十分ある。
 伊里前町の落ちた橋げたを見学したあとで、南三陸町に入った。津波による避難を叫び続けて、マイクを握りしめて亡くなった女性がいた防災センターの前には、観光バスが停まり、多くの献花が添えられていた。
 我々は少し山奥に入った、小学校を改築した「さんさん館」に泊まった。エコツーリズムの拠点になっている。わたしたちの部屋は6年2組の教室だった。食事の後でミーティングで各自感想を述べ合い、9時30分には就寝だった。健康的で早い。宗教団体は酒は原則禁止だ。わたしだけがコンビニで買った日本酒をこっそり飲んで、布団の中に入った。
 酒のせいで夜中に2回も起きたが、目覚めは清々しい。しかし、雨音が聞こえる。ボランティア活動は中止か、いやな感じが背中を走る。

 6時30分起床、7時10分朝食、7時40分に宿舎出発で、被災支援ボランティアセンターには8時過ぎに着いた。ボランティアセンターの運営は南三陸町の社会福祉協議会が主催しているが、実際に働いているのは長期滞在のボランティアたちである。白いテントの中に入ると、全国から寄せられた応援メッセージや写真が飾ってある。
 受付が終わると、ビブスが各自に渡された。サッカーの練習試合で敵味方を区別するために着るものだ。各自出身地と名前をガムテープに書いて、ビブスに貼った。
 ボランティアを作業場に案内するための女性のボランティアがバンに乗り込んできた。大阪出身で4ヶ月近く、南三陸町で活動しているという。

 バンは道に迷いつつ現場に到着した。集まったボランティアは50人を超えていた。依頼主は農家だ。ビニールハウスに案内されて、土壌の中の石を取り除くのが作業だという。作業はスコップで土を掘り返して、出現した石ころを手で掻き集めてバケツに入れて、荷車まで運べばいい。握りこぶしほどの大きさの石も出土する。単純な肉体労働だ。でもなぜ石がここにあるのかの説明はない。ビニールハウスは新しいため、津波が砂利をビニールハウスの中まで運んだと考えるのは自然ではない。みんな状況や背景を分からぬまま作業を開始した。雨の日であるため、屋外での作業でなかっただけでもよかったのかもしれないが、ビニールハウスの中は暑い。すぐ喉が渇く。

 休憩時間にお百姓に事情を聴くことができた。二階建ての我が家も、耕作地も津波で全壊した。農業を再建するために、2億円かけてビニールハウスを35棟建てた。補助金もいくらかもらった。ビニールハウスには小松菜を植えるつもりだ。土の中に石が混じっているのは、震災でいい土が入手できず、山から質の悪い土を運び込んだからだ。こんなに石が多くては、トラクターで耕すことはできない。
 なるほどそうだったのか。やっとボランティア作業の意味が分かった。労働の意義が分かると不思議と能率が上がったように見受けられる。ボランティアセンターから派遣されているボランティアが作業の前に説明すべきなのだ。
 それにしても単純作業は飽きてくる。石は拾っても拾っても、次から次に出現してくるように思える。すると、関西出身のYさんがダジャレを連発して、みんなを笑わせる。橋下大阪府知事と1年間仕事をしていたというから、元府庁の地方公務員ということになる。つまらない洒落だが、思わず笑顔がこぼれる。場を和ませる人はどこに行っても欠かせないものだ。
 午前2時間、午後2時間15分の作業が終わった。これ以上の長時間の作業はやらせないことになっているそうだ。ボランティアの健康管理のためだろう。
 我々はボランティアセンターに戻って、ビブスを返却した。雨はすっかりやみ、青い空が広がりつつある。
 途中、仮設の「さんさん商店街」に寄って、お土産を買い、宅配便で自宅に送った。充実した1日が終わった。

 連休最後の日はさらに南下した。北上川の鉄橋を渡ると、大川小学校が見えてきた。一見すると、草原の中の
古い小学校に見える。草原には民家が立ち並んでいたのだった。大川小学校の生徒は点呼のために校庭に整列していたときに、津波に襲われたのだった。裏山は急峻のため小学生では登られそうにない。
 学校の前には50人を超す犠牲者のために慰霊碑が建立されている。菊などの花も捧げてあった。見学者も多かった。背中がざわざわする。気分が滅入る。霊感だろうか。子供たちが津波に呑まれて何を思ったかと考えると、目頭が熱くなる。お母さん助けてと叫んだに違いない。
 安らかにお眠りください。復興は我々の手で成し遂げます。それ以外の言葉は思い浮かばない。

 大川小学校を去ると、石森章太郎のカメンライダーが街角に立つ石巻市に向かった。城跡にバンで登って、被災地を見降ろした。ここも街は全滅だった。墓地の墓石が多数倒れたままになっていたのは気の毒だった。黙祷。これで今回の研修は終わった。

 帰途、バンに同乗していた中学校の理科の先生が一枚の手紙を読み上げ始めた。
 先生が昨年12月に被災地に入ったときに知り合った女性からのものという。女性は1歳の赤ちゃんとともに、津波に流され、気が付いたときには2キロ離れたところに打ち上げられていたという。意識が戻ってくると、赤ちゃんは手元にいなかった。雪の降る夜中は凍えるようにそこで一人で過ごしたそうだ。そして、なぜ自分だけが助かったのか。赤ん坊はなぜ助けられなかったのか。津波に2キロの流されて助かったのはなぜか。こんな惨いことが起こるとは、世界には神なんぞは存在しない。
 そして、分かったという。普通の平凡な生活がいかにかけがえのないものであるということを。不幸なことがないことが本当は一番幸せであることを。
 わたしたち被災者のことを決して忘れないで欲しい。被災地を見た方はどうか周りの人に見たことを伝えてほしい。忘れ去られるのが一番悲しいのです。どうかいつまでも記憶にとどめておいてください。(2012年7月17日、寺岡伸章) 

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