戦後もっとも暑い夏

 日本は原子力開発を始めた当初の1950年代から、ウラン資源を有効に利用するために、原子力発電所で燃やした使用済燃料からプルトニウムを取り出し、高速炉でそれを燃焼して発電するという核燃料サイクル路線を選択してきた。エネルギー資源が少ない日本にとって、燃やすほど燃料が増加する技術は魅力的だった。技術の進歩でエネルギーが得られるのであれば、国の繁栄と国民の幸福のために核燃料サイクルを完結させる必要があったのだ。
 しかし、高速増殖炉も再処理も予想以上に実現困難な技術であることが判明していった。技術の核心でない箇所で事故や故障が相次いで起こったのだ。技術的問題、経済的問題、核拡散懸念を理由に、核燃料サイクルから撤退していった国も現れた。

 そして、3.11大震災を契機とする東電福島原発事故が起こると、原子力に対する世論の風は激烈なものとなった。現在、政府は2030年の電源構成の選択肢を3つ国民に示し、国民レベルでの議論を起こそうとしている。その意向を踏まえて、8月下旬、電源構成比を決めようというのだ。
 選択肢1は、原子力0%、再生可能エネルギー35%、火力発電50%、コジェネ15%。選択肢2は、原子力15%、再生可能エネルギー30%、火力発電40%、コジェネ15%。選択肢3は、原子力20~25%、再生可能エネルギー25~30%、火力発電35%、コジェネ15%だ。
 原子力の割合が決まると、核燃料サイクルの運命が定まってくる。原子力0%の場合、原発で燃やされた燃料は再処理されることなく、地中に全量直接処分されることになり、高速増殖炉「もんじゅ」は開発が中止される。つまり、核燃料サイクル路線が断念されることになる。
 原子力の割合が15%の場合は、再処理と直接処分が併存されることになる。六ヶ所再処理工場は稼働し、取り出されたプルトニウムはウランと混合されて軽水炉で燃やされる。工場の能力を超える使用済燃料は貯蔵され、直接処分に供される。もんじゅは5年程度運転し、技術成立性を確認することになる。
 原子力の比率が20~25%の場合は、技術の進展度などを考慮して、再処理/直接処分併存または全量再処理が選択される。六ヶ所再処理工場は稼働されるが、もんじゅは次の実証炉実現のフェーズの前の原型炉か性能試験のための試験研究炉かの位置付けになる。これらの不確実なオプションは政府が調整して決めることになっている。

 現在、政府は国民的議論として、全国11か所での意見聴取会、パブリックコメントの受付、討論型世論調査、少人数グループ討議を行うとしている。脱原発派は集会とデモ行進を行い、民主党政権に原子力ゼロを選択するように圧力をかけている。原発敷地内で活断層の疑いが言われているのも脱原子力派の意向が反映されているのかもしれない。民主党から小沢一派が離党し反原発を掲げているのに続いて、元民主党等の女性国会議員4人が緑の風の会派をつくって、反原発の動きに乗じようとしている。

 パブリックコメントや意見聴取会は脱原発の声が多数を占めることは十分予想される。原発推進の国民がわざわざ会場に出向いたり、コメントを送信したりすることは考えにくい。そのような国民の意見を鵜呑みにすれば、脱原発の世論が圧倒的なように思える。
 マスメディアについては、脱原発の朝日と毎日、原子力推進の読売と産経に明確に割れている。テレビはおおむね脱原発指向が強い。
 民主党内は、選挙基盤が弱い1年生議員は世論に敏感にならざるを得ず、脱原発に傾斜していくのではなかろうか。民主党執行部は消費税増税法案を是非通したいだろうが、世論の関心が原発の是非に向かないように留意していることだろう。
 今年の夏も暑い。エネルギー不足で停電という不測事態に陥れば、世論が急変する可能性もある。自然再生エネルギーの技術進歩が予測できないため、脱原発はエネルギー供給不安となって国民生活を直撃する可能性も高い。
 また、あまり議論されていないが、エネルギー源の選択は統治機構にも影響を及ぼすことになる。原発を止めて自然再生エネルギーに重点を置くようになると、中央集権体制の維持は困難になってくる。地方分権化を進めて、人口の分散に努力せざるを得なくなるに違いない。
 国民は放射能に対する恐怖の受容かどうかではなく、将来の生活や文明のあり方、政治のあり方にも影響を及ぼすようになることに思いを致すべきである。
 野田総理は、短期的な国民の要望に目を向けるのであろうか、それとも国の繁栄と安定を重視するのであろうか。いや、これでは問題の設定が悪すぎるかもしれない。野田総理は、新しい生活スタイルを求めて国民とともに未知の世界に踏み出す勇気を持つのであろうか、それとも将来が予想できる既得権益の集団に日本を任せるのであろうか。
 どのような選択結果になるか予断を許さないが、戦後で一番暑い夏になることは間違いがなさそうである。国民が冷静か、それとも野田総理の方が冷静かを見極めたい。(2012年7月17日、寺岡伸章)

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