テーマ:小説

小説『救世主兄弟』

 四人の家族が少し険しい山でハイキングを楽しんでいた。空は雲ひとつなく、空は高かった。新緑の山々は家族の新しい船出を歓迎しているようだった。四十歳代のジョージとマリーの夫婦は小学低学年の二人の息子を誘って、空気のいい山にやってきたのである。もう少しで頂上だ、みんながんばれとジョージの明るい声がこだました。  一年前、家族は暗闇に閉ざさ…
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小説『鳥の国』

 ある年の初夏、あたしは広告代理店のハングライダー同好会の友達数人と群馬県のスキーゲレンデに遊びにいった。ハングライダーで大空を飛翔するためよ。そのとき、ひとりの男がゲレンデの隅でたたずんでいた。男の第一印象はハツカネズミかツバメのような顔をしていた。男はハングライダーをやるともなしに、青い空を見上げたまま悲しそうな表情をしていた。 …
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小説『歯を持ち歩く男』

 男の話は時間を大幅に超えていました。でも、聞き手は熱心に耳を傾け、司会者も話を遮ることはありませんでした。  わたくしはほんとうに意気地なしで、つまらない人間なのです。卑怯なのです。生きていく価値なんてこれっぽっちもありません。  男は四十九歳の独身男性でした。聞き手は同じくらいの年齢の四人の男と四人の女でした。配偶者を探すために…
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小説『宿命』

 渡辺一郎は物心ついたときから読書が大好きだった。時間さえあれば、いつも本を手にしていた。友達と一緒に外で遊ぶことがあまり好きでなかったため、誰も遊ぼうと誘いに来ることはなかった。それでも、一郎はちっとも寂しくなかった。本の中に描かれた知らない世界にのめり込んでいた。国内外問わず、家や小学校の図書館にあった本を手当たりしだい読んでいた。…
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そうでなかったもうひとつの現実

「昭和以降に恋愛はない、街はいつでもばかみたいにセックスにしかみえない男子女子が連れ立って歩く、みんな死なないといけない」  大江麻衣氏の詩編『昭和以降に恋愛はない』からの引用であるが、現代を簡潔にえぐっているショッキングな一文だ。僕には書けないと脱帽。こんな文章が書けるのは自己と他者との軋みやずれを強烈に感じ取っているからだろう…
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小説「僕はフリーター」

 僕は二十九歳。職業は一応フリーターということになっている。  僕は四国から東京にやってきた母と東北から上京した父の間に生まれた。東京の新宿に生まれ育ち、就学旅行を除けば関東から離れたことはない。家族旅行はいつも千葉だったような気がする。なぜだかその理由は今でもわからない。  僕は公立の中学を卒業すると、戸山高校に入学した。勉強はあ…
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小説「演じる男」

 眉間に皺を寄せなければ思いだせないくらい昔のことだが、私が北京に駐在していたとき、その男は日本からやってきた。私は男のアテンド役ではなかったけれども、有名な男なので記念にと行動をともにした。そのとき最初に会ったが、再び会いたいという男ではない。人間味に欠けるのである。  男は超有名なので、その素性がばれるようなことを書くわけにはいか…
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短編小説『先輩』

 僕が大学を卒業し役所に入って三十年に届こうとしている。まさにあっと言う間の出来事であった。楽しいこともあったし、不愉快な目や理不尽なことにも遭遇した。これが世の中なんだと実感させられた瞬間だった。  役人になるひとは上昇志向が多い。自分の能力で国家を動かしたいと野心に燃えて、霞ヶ関に入って来る。誤解のないように言っておくと、ほとんど…
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