二つのピークの終焉

 消費税増税法案(正確には、消費税率アップ法案)の衆議院採決を巡り、政権党の民主党が分裂する様相を呈してきている。そもそも民主党は要綱を持たない寄せ集め集団であるため、いつか重要な法案の是非でこのような事態になることは予想されていた。やはり価値観を共有化していない集団はいざとなったときに脆いものだ。
 社会保障改革は国民の最大関心事の一つであるが、政府は医療・年金・介護・保育の財政状況の正しいデータを示さず、さらにそれを踏まえた改革案を提示していないために、消費税率アップの是非を問われても国民は判断に困る。高福祉低負担が危機的な財政状況を招いていることを明らかにすると、政治家は国民の支持を失い、次の選挙で敗北に終わると恐れている。国民の「怒り」が怖いのだ。
 しかし、国民はバカではない。このままではヤバイとうすうすと感じているのだ。高齢者だけでなく、人々が今の社会保障制度が死ぬまで維持できればと、楽観的に考えようとするのはある程度やむを得ない。国民に真実を言って、パニックを起こしたくないのかもしれない。これはパニックを起こしたくないために、東電福島原発事故を過小評価してきた政権の心理状態と類似のものだろうか。

 しかし、国の借金は1100兆円まで達し、国民の金融資産の1400兆円に迫る勢いだ。赤字国債の発行は限界に来ている。財政支出の大幅カットは避けられない。早晩、年金給付金、農業補助金、公共事業費、教育助成などが全面的に見直される事態に陥る。国民から見ると、社会サービスの低下を覚悟しなければならない。次世代への借金により身の丈以上の贅沢な生活を送ってきたのだから、壁にぶつかり、矛盾が拡大し、破滅するのは時間の問題だった。ただ、政治家も国民もその厳しい真実を真面目に見ようとして来なかった。政治が「打ち出の小槌」として国民から支持され、バラマキ機能を果たしてきたのである。「想定外」という言い訳は許されない。
 高福祉低負担の政策はピークを迎え、破綻へと転がり落ちていく。

 もう一つのピークは石油ピークである。2005年に世界の石油生産量はピークを過ぎ、現在フラット状態であるが、10年以内に減少に転じるという説もある。石油可採量は最高の国家秘密であるため、その正確な量を把握することは難しい。各国が国際エネルギー機関に報告している量を合計したり、石油メジャーが推定している可採量が出回っているが、実態はよく分からないというのが正直なところだ。
 特に、日本は政府も石油会社も学者もジャーナリズムも世界標準から大きく遅れているため、真実の情報から疎外されているのが実態だ。マスメディアは原発の是非は国民の関心が高く、流行のため、毎日のように報道するが、石油減産すなわち石油文明のような本質的な問題は避けようとしている。彼らは原子力ムラの「想定外」を批判しても、石油文明崩壊の「想定外」は考えたくないのだろう。国民のパニックが心配なためだろうか。
 サウジアラビアなどの中東の産油国は海外投資を絶やさないためにも、石油可採量を多めに公表している可能性は高い。中東各国が原発導入に非常に積極的なのも、残された石油はそんなに多くないと推察したくなる。
 米国軍は「石油需給危機は2014年にやってくる」というリポートを発表しているが、世界は固唾を飲んでいる状況である。

 世界の人口が70億という膨大な数になったのは石油のお蔭である。石油生産の減少は食料危機、資源・エネルギー争奪、金融恐慌に直結するであろう。エネルギー供給が減少すれば、経済成長神話は脆くも崩壊する。失業者が増加するだけでなく、大都市は存亡の危機に追い込まれる。
 もちろん石油文明の崩壊は突然やってくるわけではないが、やってくる兆候が見えれば、後戻りすることはあり得ない。原発の電力供給が無い社会よりも、もっと深刻な状況になることは間違いがない。

 仮に石油がまったくなくなった状況を想定すると、日本全国の耕作可能地に米と芋を作付すれば、1億4千万人分の食糧を供給できるという試算はある。ただし、石油がなくなるために、電気かバイオエネルギーで動く耕耘機を開発しなければならない。
 当然のことであるが、大都市に集中している人口は地方に分散することになる。地産地消でエネルギー消費を抑えなければならなくなるからだ。

 政治の世界で地方分権や道州制が議論されようとしているが、これは期せずして石油文明崩壊後の世界を予想しているかのような動きだ。中央集権国家は大量のエネルギー供給が前提に成り立っている。エネルギー供給が制限される社会では、江戸時代のような藩が主体的に統治を行っていく仕組にならざるを得ない。歴史は廃藩置県の逆である廃県置藩へと向かう可能性もある。地方の人々が元気がいいのも、時代を先取りしているからであろうか。

 高福祉低負担の行き詰まりで政治が崩壊し、石油供給の制限で大量生産・大量消費文明が終わり、地方の時代に戻ろうとしている。政治の迷走も原発事故も首都直下型地震の可能性も大阪維新の会の登場も、どこか深いところでつながっているような気がする。その赤い糸の存在にまだ誰も気づかないが、次第に人々の前に見えるようになるのであろう。それは意外に早いかもしれない。少なくとも「想定内」と考えて準備しておいた方が賢明だ。(2012年6月23日、寺岡伸章)



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